日出づる国の片隅で。

本の話から日常の話まで

かけがえのないもの

人は「生」まれ「老」いて「病」んで「死」ぬ。これはもう当たり前のことである。ところが現代では、そのほとんど多くの人が、病院で生まれ死んでいく。これは日常の中から生や死がなくなってしまった、特別なことになってしまったということ。「生老病死」というのは、人の本来の姿、自然の姿である。ところがそれが特別なことになってしまった現代は、大変な異常事態である、と。

時間とは、過ぎてしまった過去とまだ来ない未来、そしてただいま現在と分けているが、現在というのは一瞬にして過去になってしまうから、理屈として現在など存在しないことになってしまう。でも実感として現在と感じることができる。この現在とは何か。手帳に書いた予定、当然起こるべき未来、決めてしまった未来のことである。都会では、なんでも予定化しようとする傾向があり、現在がどんどん大きくなって未来を食っていく。子供は何も持っていない。知識も経験もお金も体力も。でも一番の財産として一切何も決まっていない未来を持っている。それを著者はかけがえのない未来だという。

自然と人工、田舎と都会、心と身体などを対比させながら、何がかけがえのないものであるかを語る。

先の見えた人生など楽しくはない、と著者は言う。けれど、先が見えない人生に、不安を覚えてしまうんですよ、ね。

<「かけがえのないもの」養老孟司著 新潮文庫